Des Histoires Vraies
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CHANEL MOBILE ARTは好評につき、7月4日の最終日までの予約がすぐに埋まってしまったそうで、改めて再度訪れようと思っていたら、予約がとれなくなっていた。

さて、先日のオープニング・プレヴューの際の“本当の話”。その覚え書き。
またはクロワッサン狂想曲(ラプソディ)。

その展覧会のプレヴューは、ちょうどエントランスでお会いした林 央子さんとFIGARO編集部のK女史と、なんとなく一緒にその3人で巡ることとなった。日本で数少ない本当の意味でのジャーナリストだとかねてより敬愛している林 央子さん。“なんとなく”、というのはおたがい1分ずつずれたガイドに従いながらのプレヴューであったからである。

4、50分ほどでプレヴューは終了。個人的な好みはレアンドルとソフィ・カルというのは、まあ、ご想像の通りであるが、なんといっても素晴らしいのはその器、ザハ・ハディットによるモバイルな建築物であろう。代々木体育館の脇という立地も丹下健三のレトロ・フューチャーなあの建築ともやけにマッチしている気がした。
林さんはその午後、FIGARO誌のためにレアンドルの取材をするとのこと。本当はソフィ・カルにも取材を申し込んだのだが…という。

そんな話をしながら、一緒にランチにでもと、ゲートを出たときであった。すぐ脇においていた自分の自転車に近づいてみると、その前かごに見覚えのない白い紙袋が入っている。覗き込んでみると中にはクロワッサンがひとつ。以前より“フランスパンがお似合いね”などと嘲笑されたこともあるその僕の自転車の籐のかご。もちろんクロワッサンも似合わなくもないのだが、それにしたって、あまりに唐突な“プレゼント”だ。クロワッサンはみるからにおいしそうな焼き色で、さらによく見てみると一緒にいくつかの紙切れも入っている。

その白い紙袋は、今回のMOBILE ART展に参加されているアーティストや関係者が滞在しているという新宿のホテルのブランジェリーのものであり、中に散らばって入っていた紙切れは何枚かのタクシーの領収書と新宿歌舞伎町の住所と電話番号が記されたメモ。その歌舞伎町の文字はところどころ震えていたり、間違っていたり、ちょっと日本人離れした筆致である。さらにフランスの銀行のATMで現金を引き出した際に出てくるレシート、裏には地図のような、ただの落書きのような、四角と点が書かれている。それからタイのリゾートホテルのメモ帳にも何か書かれている。

そこまで3人で確認して「これは今回のアーティストか関係者の誰かが、朝食用にホテルで包んでもらったクロワッサンを入れた紙袋を片手に、タクシーでこの会場のオープニング・プレヴューに駆けつけ、その入り口の前で誰かに会った彼(彼女)が、挨拶する際にちょうど脇にあったその自転車のかごに、“置いて”そのまま忘れてしまったのではないか。フランスの銀行口座とクロワッサンからやはりフランス人でしょう」というような想像を巡らせてみた。

同時にすぐに思いついたのは、「もしかしたらソフィ・カルに近くで観察されているんじゃないか」という妄想。一応きょろきょろと周りを見回してもみた。結局、物陰からのぞくソフィ・カルを発見出来るわけもなく、僕らはゲート脇の植え込みの上にそっとその袋を置き去りにしてその場を去ってしまった。

それから表参道でランチを一緒しながらも、実はその白い紙袋とクロワッサンのことは何度か話題に上るほど気になってしまっていた。それで、ランチの後、林さん、K女史のお二人はレアンドルの取材へと向かわれるわけであるが、僕の自転車はついつい代々木体育館脇へと戻っているのであった。やはりあの中身が気になって仕方がなかったのである。あまりにクロワッサンがおいしそうだったからでは決してない。はたして約1時間半ほど前に僕の自転車のかごから出されたその白い袋は、無事にその場に滞在していた。そして再びその自転車のかごの中に収まってしまったわけである。

それは5月の30日の出来事。その夜はCHANELのパーティでJOAKIMとシャンパーニュを楽しんだ。

さて、クロワッサンといくつかの紙片は、アトリエに放置したまま、僕は旅に出てしまった。やっぱり誰かのアートな行動であったかもしれない、というかすかな望みは捨てないままで。結局、パリ=北欧の旅からアトリエに帰ってきて、乾燥しきったクロワッサンは捨ててしまったのだけど。約2週間と少しが過ぎ、僕らはソフィ・カルからの監視は受けていなかったようだと思い出す。
以上、この話にオチはない。

クロワッサンはさておき、もしかしたら結果として、そのメモと領収書をなくしてしまったフランス人を困らせてしまったのではと、少しだけ反省もしたが…。セ・ラ・ヴィ。

ちなみにその歌舞伎町の住所と電話番号は、東京を訪れるフランス人にはもっぱら有名なゴールデン街のあのバーのものであった。


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もうひとつ余談。その日の林 央子さんとの話題では“エレン・フライス”のことが何度か出てくるわけであるが、その夜に僕は“オリヴィエ・ザム”と会うことになっていたという奇遇もあった。いよいよ休刊になってしまったというPurple Journal、そして相変わらずとばしていくPurple Fashion。かつて多感な時期の僕に多大な影響を与えたPurpleのことを、年に何度か思い出す。 Purple Anthology はまだ買っていない。
エレン・フライスはパリに愛想を尽かし、リオ・デジャネイロに旅立ってしまったのだという。
by cherchemidi | 2008-06-16 16:29 | et cetera...
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par 梶野彰一
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