Tu Sais Je Vais T'aimer
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| Henri Salvador | photo: sk |

(つづき)

アンリ・サルヴァドールは今年の7月18日に90歳を迎えた。ちゃんと調べたわけではないが、おそらく現在活動する最高齢にして、最長の活動歴をもつアーティストだろう。
そのアンリ・サルヴァドールが音楽活動に終止符を打って、ステージを去るというのである。

六本木ミッドタウン。僕のような人間には普段これといって用もない。リッツカールトンで行われたヴァンクリーフのパーティでペドロ・ウィンターがDJするというので、そのカクテルに行ったきり。そんなミッドタウンの中に8月下旬にできたばかりのBillboard Tokyoは着席&サーヴのついたコンサート会場で、こじんまりしたBlue Noteのような感じ。テーブルからステージまでの距離は近いし、ゆっくりお酒を頂きながら音楽を楽しめる会場だ。

着席して、ワインを頂きながら開演を待つ。ステージの後ろは全面大きなガラス張りになっていて、バックにトウキョウの夜景が眺められる(とはいえ、ライヴ中は大きなカーテンで隠されてしまっていたのであるが…)。開演予定時間の21時、ほぼぴったりにライヴはスタートした。
バンドはギター、ベース、ドラム、ピアノにキーボードとホーン隊が3名、と意外に大がかりで、全員がおそろいの白いスーツに白いスニーカーである。アルバムの冒頭を飾る「La Vie C'est La Vie」のイントロが流れると、待ちきれない拍手の中、満を持してステージに登場するアンリ。お約束の「カンバンワ〜」のあいさつに笑いが起きる。ネイヴィーのダブルのブレザーに身を包んだアンリジイさんは、ひとめ見ただけで、元気そうであることがわかる。
「RÉVÉRENCE」からの曲を中心に次々に披露する。実は冒頭、「ん…」と思うところもあったけれど、その歌声は美しく、高い笑い声は冴えていた。
ライヴの中盤だったと思うが、今回のアルバムの目玉でもあった「Tu Sais Je Vais T'aimer」(あなたを愛してしまう)を歌い始めるアンリ。ご存知ジョビンの書いた名曲のフランス語カヴァーで訳詞はジョルジュ・ムスタキによるもの。このカヴァーは本当に美しい。この曲の歌の最後の瞬間、アンリは声を詰まらせてしまった。演出でもなんでもなく、泣いて歌えなくなってしまった。こんなことはこれまでなかったそうだが、この歌詞が美しくて悲しくて、泣いてしまったというのである…。この詰まった涙声に、僕をはじめ客席の多くの人は心を震わせていたに違いない。

そんな涙声をごまかすように、「悲しい歌は終わりにして、さあ、スウィングしましょう」といって歌い始めた「Madomoiselle」ではおきまりのパナマ帽をかぶってステップさえ踏んでしまうほどの軽やかな身のこなしは90歳のものとは思えなかった。
その後、往年の名曲「Syracuse シラキューズ」では大きな拍手で迎えられる。この歌には途中「フジヤマ〜」という歌詞がある。さらにレオ・フェレの名曲「Avec Le Temps」(ジェーン・バーキンのカヴァーでも有名なあの曲…!)のカヴァーで、会場はふたたび荘厳な空気に包まれた。
そして最後に「Dans Mon Ile(僕の島で)」である。ここにはゲストに小野リサさんが登場し、アンリジイさんはお茶目な色目を使いながらデュエット。拍手が鳴り止まないままに「Bonsoir Ami」が流れる。この曲はファンにはお約束のエンディングのテーマ曲である。マイクを置いて演奏の続く中ステージを降りるアンリに観客は全員立ち上がって最大級の拍手を続ける。アンリは何度も振り返って手を振りながら奥へと消えていってしまった。その後バンドが引き上げた後もアンリは手を振って応えてくれてはいたものの、再びステージに上がることはなく、アンコールの叫びと拍手はしばらく止むことはなかった。この素晴らしい引退公演に、僕だけではなく、多くの観客の目に涙が浮かんでいたことは間違いない。

さて、コンサートの後、ありがたいことにバック・ステージにご挨拶にうかがう機会を得た。ドアの前から聞こえてくるアンリジイさんのあの甲高い笑い声…。60分のコンサートを2回こなしたとは思えない元気な様子に、ちょっと拍子抜けさえする。「素晴らしいコンサートをありがとうございます」の言葉の後、すこしお話することができた。一番うれしかったのはアンリはちゃんと自分のことを憶えてくれていたこと。それもお宅に訪問して、一緒にクルーズしたことだけではない。その際、お土産に日本酒を持参したことや、一緒にブイヤベースを食べたな〜、君はサングラスをかけてて、というような細かいことまでちゃんと覚えていてくれたのである。さらに脇にいた奥さんにも再会のご挨拶。アンリと同じく、まったく5年の月日の経過を感じさせない元気な様子にうれしくなってしまった。シャンパーニュで乾杯…。アンリ・サルヴァドール、東京での最後の夜。僕はこの偉大なアンリジイさんに心よりの「最敬礼」を贈ったつもりである。

これが2007年の最後の夏の夜。優しい気持ちにみちた、なんとも思い出深い夜になった。

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| Chapeau Panama | photo: sk |

今度はいよいよパリで引退コンサートがあるそうだ。10月と12月。
「ぼくは今回のこの思い出だけで充分」のつもりなのだが…。
by cherchemidi | 2007-09-11 19:37 | de la musique
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par 梶野彰一
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