RÉVERÉNCE
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アンリ・サルヴァドールの最後のアルバム「RÉVERÉNCE」は間違いなく今年の夏に最も聴いたアルバムのひとつである。そもそもアルバム単位で音楽を聴かなくなって久しいから、久しぶりに曲順通りに楽しんだアルバムだった気もする。

『アルバムのために「RÉVERÉNCE (最敬礼)」というタイトルを選んだのは、僕自身です。キャリアの終了地点ということで。自分自身と今まで出会ったミュージシャンや仲間たちに深くお辞儀をするという意味を込めました。美しい歌たちを収録して、何より音楽に深くお辞儀をしようと言う思いがこもっています』
——アンリ・サルヴァドール  (V2 Records HPより転載)

2000年の「Chamber Avec Vue」、2003年の「Ma Chère et Tendre」と信じられないようなニュー・アルバムが届くたびにいつもこれが最後のアルバム…と覚悟していたような気もするが、このように自らの言葉で「キャリアの終了地点」なんて言われてしまうと、なんとも言葉にできない気持ちになってしまう。

1958年の彼の名曲で、ボサノヴァの源流となったとも言われる「Dans Mon Ile(僕の島で)」が半世紀の間を超えてセルフ・カヴァーされているというのは、なんとも驚きであるが、さらにこのアルバムには美しい2曲のデュエットがある。
カエターノ・ヴェローゾとの「Cherche La Rose」と、ジルベルト・ジルとの「Tu Sais Je Vais T'aimer」。カエターノは81年のアルバムでアンリの「Dans Mon Ile」をカヴァーした経緯がある。

ここで、これ以上ライナー・ノーツみたいな文章を書くのはよそう。
その代わりに回想記。あるいはロゼ・ワインの理由のようなもの。

アンリ・サルヴァドールの取材と称して、2002年の夏に南仏の彼の自宅を訪ねた経験がある。雑誌は「relax」。日本で最もアンリ・サルヴァドールを愛するファンのひとりであるはずの岡本仁編集長は、どうしても都合がつけられないということで、僕はこの信じられないくらいありがたいお話を頂いたのである。
マルセイユ空港でフォトグラファーとコーディネーターの二人に合流して、そこから車で1時間ほど、小さなプロヴァンンスの村に泊まり、翌日、昼前にはムッシュ・サルヴァドール邸に着いた。プロヴァンスの山の上、その一帯がまるごと柵で囲われているような高級邸宅エリアの中にある瀟洒な邸宅である。山の中の村…と思っていたのだけど、ピアノが置いてあるリヴィングから一面に地中海が広がる。さらにひとつ下の階層にあるプールからも青い地中海が見渡せるという楽園のような空間。
さて取材とはいえ、お家をぐるっと(プールから寝室まで!)案内してもらって、アルバムのお話、普段の生活のお話を聞くというもの。ほんの数時間の取材と思っていたのである。1〜2時間ほどか、お話も一段落したところで、アンリとまだ若い奥様の口から「せっかく来て頂いたのだから、一緒にランチでも」というお誘いを頂き、僕らは一行で車に乗ってカシスの町へと下りることになった。
カシスの港町は、思った以上に小さかったが、その小さな町がサルヴァドール氏の到着ににわかにざわめくのが分かった。レストランのテラスの席にみんなで並んで座り、ロゼのワインを頂く。そしてご夫婦のおすすめであるブイヤベースを。もはや幸せすぎる夏の時間。さらには「じゃあ船にでも乗りましょうか…」という言葉とともに、港へ足を向けるのである。港沿いの道を奥様の肩を借りながら歩くサルヴァドール氏であるが、その後ろに続くのは僕たちだけではなかった。老若男女(ほんとに子供からお年寄りまで!)のファンたちがゆっくり付いてくるのだ。国民的な大スターの登場に静かな港町は軽いパニック状態となった。
ことの次第は細かく覚えていないのだけど、その後、サルヴァドール氏は一隻のボートを貸し切ってくれ、僕たちは地中海のカランク巡りのクルーズへ。白い石灰石の入り江と深い青の海、緑、空、もう言葉にはできない美しい色彩を僕はもちろん今でも覚えている。そしてボートのエンジンさえかき消すような豪快なアンリの笑い声…。太陽は高くまぶしかった。
午後、日が傾く時間に、再び僕たちはサルヴァドール邸のリヴィングにいた。冷たい飲み物を頂いている中、アンリは突然、ピアノに向かう。そして「今日の楽しい一日のために1曲歌いましょう」と、突然歌い始めたのである。
今考えても信じられないような瞬間の連続、そんな一日であった。
僕らはその夜、ホテルに戻ってから、そんな一日のことを反芻するように語り合いながらバンドールのロゼを空ける。
今でも、南仏の夏にはロゼしか飲まないのはその旅の刷り込みのせいだ。


さて、アンリ・サルヴァドールはその2002年の秋にBunkamuraでのコンサートのために奇跡の来日コンサートを果たした。それは素晴らしいステージで、笑いと感動、本当に多くの涙を流してしまったのであるが、今年の9月に引退コンサートのために来日するのだと知ったのは6月のことであった。なんでも話題の六本木ミッドタウンに出来るというBillboard Tokyoだという。詳細を見てまず驚いたのはチケットの高さ、16000円。ただ7月のモナコ、すれ違いで見れなかったコンサ−トもまたほぼ同じの100ユーロであったことを考えれば、仕方ないのだろう…。とはいえ3日間、1日に2公演ずつの6回の公演(頑張りすぎ!)、すべてに行けるわけもない。さて、サルヴァドールといえば僕にとってはこの人しかない。どの公演を予約すべきだろう、僕は先の岡本氏にメールした。「サルヴァドールのコンサート、いついかれますでしょうか?」。
さて、ここにそのお返事を断りなく転載させて頂いていいものだろうか(お気を害してしまったらごめんなさい)…、前後は略させて頂くが驚くべきお返事を受け取ってしまった。

「ぼくは前回のあの思い出だけで充分です。きちんと今回のライブを聴いて、心の底から『歌ってくれてありがとう』と言わなくてはいけないとわかっていますが、きっと、前回とは違う種類の涙を流してしまいそうです。だから、やめました」。

実のところ、岡本氏が以前にご自身のブログにて「Dans Mon Ile」のセルフ・カヴァーに言及しており、アルバムを買わなかったという件は承知であったのだけれど、僕は、最後までこのメールの真意を完全には理解できないままであった。
ただどうしても、僕はアンリの引き際を見届けないわけにはいかなかった。要領が分からないBillboardのホームページを見ながら、公演を予約した。日本での最後の最後のステージになるであろう、9/8(土)の2回目の公演である。

(つづく)
by cherchemidi | 2007-09-10 17:32 | de la musique
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par 梶野彰一
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