le sanctuaire
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沖縄に滞在したのは5月のひと週末だけであったし、雨には当たらなかったものの、あいにくの天候であった。さらに誰かと一緒に休暇を楽しむような旅でもなかったわけであるが、東京に戻ってからというもの、無性に沖縄のことが頭に浮かんで来るのである。

その午後、夕方まで自由な時間が出来たので、僕はレンタル・バイクを借りることにした。スターバックスやタワーレコードが並ぶ那覇市内を見たいとは思わなかったが、海に向かうには、準備がなさすぎた。

沖縄の方がこれを目にして気を悪くされては申し訳ないのだが(先にごめんなさい)、素直な感想、沖縄の“日常的な”景観というは、素朴であるという点をのぞいてしまえば、“南国”とか“リゾート”という典型的イメージをさらりと裏切るかのようである。殺伐としていて、そのグレーのブロック、コンクリート色の道路、そして古びてサビついた看板や、大都市と全くかわらないチェーン店の並ぶ様は、僕の気持ちを落ち込ませる。

そんなわけで、手にしたありきたりのガイドブックをみて、ふとここを訪れてみようと思ったのである。

ここ「斎場御嶽(セイファーウタキ)」は世界遺産にも指定されているとのことであるが、畏れ多くも「斎場」も、「御嶽」も、その時点まで読み方さえも知らなかった。琉球で最高の聖地ということで、僕は文字通り何かに引っ張られるような気持ちで東へ東へと灰色の道路を走る。時々地図をみて、確認してみるも、それは間違えようもないルートで、途中寄り道をしてヤギに出会ったりしながら1時間ほどで僕はそこに辿り着いた。

生い茂る森への道に入った瞬間に、そのすごい厳かな空気に満たされ、不思議な安心感を得る。「世界遺産」という仰々しさは全くないものの、やはり週末だけに何組かの観光客がいる。その観光コースとして公開されている斎場はさほど広い範囲ではないのだが、ぐんぐんと奥へ奥へと足が吸い寄せられるような気を感じる。その最も奥にあったのは巨石と原生の緑で、何組かの観光客がその場を去って、一人になるのを待ってみた。ゆっくりと写真を撮りたかったわけではなく、とにかく、静かな中で森の音だけに包まれるのを待ってみた。明らかに外とは違って、空気は湿度を帯びて重く、同時に澄んでいるのを感じる。そして森、土と緑のにおいに満たされる。ちょっとした風でざわざわとすり合う木々の音と、何の動物か分からないが遠くからは鳴き声が響き、虫の声さえ聞こえる。どのくらいいたのか分からないけれど、とにかくその静寂に、ある種の恐ろしささえ感じさせられ、そこを去った。

そして、ガイドブックに載っていた写真の通りの、巨石が寄り添って出来た三角形の空間を目の当たりにする。ファインダー越しにその岩をみると、奥からオーラのような光線が刺してくるのが見えた。残念ながらそのままフィルムには焼き付けられてはいなかったのであるが、あのファインダー越しの光線は特別であった。さらにあとで分かったのだけど、もしかしたらまさにこの場で、少々奇妙なことが起きていたかもしれない…(やっぱり考え過ぎかも知れないので、書くのはやめておこう)。

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そのダイナミックな巨石の隙間をくぐり抜けると広がる礼拝の空間。緑が重なった先のハート状に開いた覗き窓からは、湿度にかすんだ中海が見渡せ、かすかに島も見える。情けないことに、後になって何かを読んで分かったのだけど、実はそれが神聖たる「久高島」であったのである。何枚かシャッターを切ったが、こうして後になってみても、どうしてもその場の空気までは伝わる写真が撮れていない。そのなんとも荘厳で神聖な空気…。

さらに斎場を後にする前に、どうしてももう一度と思って、奥の森の中の広場へ戻ってみた。今度はそこにはもう誰もいなかった。肺の奥まですべてをその空間の空気に入れ替えるほどに深呼吸をする。

僕はうっすら淀んだ雲の下で、何か不思議な充足感を感じて森を後にした。そして坂を下り、海岸沿いの道に出たタイミングで、強烈な夕日が雲の隙間から僕の目を刺してきたのであった。
開かれたサンクチュアリィ。こんどあの森の空気を思いっきり吸えるのは、いつのことであろうか。そのときは、改めて海に浮かぶ「久高島」を見てみたいと思う。

さて、この数日僕を襲う沖縄への郷愁にも似た思いはいったい何なのか。太陽の輝きの下、青い海を見たい…という、これまでのような単純な楽園憧憬とは違った何かを感じて、僕はあの湿度を懐かしんでいるのである。

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| 斎場御嶽, 沖縄 | photo: sk |
by cherchemidi | 2007-06-07 04:04 | monologue
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par 梶野彰一
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