La Tour ~ Queneau et Moi ...
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| photo: sk |

エッフェル塔 
〜クノーとボクと、時々、エディ、さらにモーパッサンも〜

日差しが気持ち良い日曜日、僕の足がエッフェル塔に向かったのは、間違いなく何かのオブセッションのせいだ。それも何の迷いもなく南の橋脚へ。すなわちエレベーターの長蛇の列ではなく、階段でその塔に昇る人のためのエントランスのある橋脚である。
さほど長くはなかったが、日曜とあって行き場を失った観光客(僕もまったくそのひとりなのかも知れない)が列をなしている。案の定、センシビリティの欠けたアメリカ人が徒歩でエッフェル塔に登るにあたり、周囲の同胞(だいたいは腰の高い位置にウエスト・ポーチをさげている)に向かって大きな声で話している。ヨーロッパなまり(NOT 英国なまり)の英語しか理解できない僕でさえ、その内容のない英文は、右耳から入って左耳へ受け流せず、脳が勝手に翻訳してしまうほど容易なものだった。そのアメリカ人はこの列が階段で昇るための列であることを、セキュリティのムッシュやら、同じ列に並ぶ初対面の同胞人やらに繰り返し尋ねて確認するのである。最後にはチケットを買う段階になって窓口でも同じ質問を繰り返したとき、僕の侮蔑は最大のものとなった。
そんなことに気を取られていてか、あまり気にもならなかったのであるが、その大観光スポットの列に日本人の姿がなかったのはなぜだろう。階段だからではない。エッフェル塔の展望フロアにさえ、中国人はいれども日本人の姿は見かけなかった。賢い日本人は「エッフェル塔からパリを見下ろしたときの物足りなさ」を承知しての事だったのだろうか。
僕は700段の階段を駆け上がった。それもあまりに唐突にエッフェル塔を訪れたために足下にはエディ・スリマンによる試練の足かせ——初夏のような陽気に不似合いなヒールのブーツ——が施されていたままであったのにも関わらず。階段で昇って、階段で降りる、というのは実は初めてだ。そもそも数えきれないほどパリに来ておいて、この塔に昇ったのも、数えるほどしかないはずだが…。今回はちょうどパリに向かう直前にフランス映画の原稿を書くために「地下鉄のザジ」を見たのが、そのオブセッションに関わっていたのは間違いない。それを自分で分かっていながらオブセッションと言ってもいいものかは別として。忠実な「ザジ」のファンはリフトであがって、階段で降りる。これまではちゃんとそれを忠実に守って来ていた。階段を駆け上るときに、うかつにもあのザジの映画音楽を思い出して恥ずかしくなった。36歳にして、パリを見渡そうとカメラをかかえて、ヒールのブーツでひとり階段を駆け上がる男、脳内に巡るのは「地下鉄のザジ」であった。
そんな僕にとって、地上から115mという第2展望台までの700段の階段は想像していたよりもはるかに楽だった。
さて、エッフェル塔から眺めるパリは明らかに物足りない。凱旋門が見え、サクレクールが見え、モンパルナス・タワーがそびえ立ち…空は抜けるように青い。間違いなくパリを見渡しているのに物足りないのは、ずばり、その景色にエッフェル塔がないからだ。
確かモーパッサンはエッフェル塔が醜く嫌いだからといいながら、エッフェル塔の上のレストランで食事をしたという。そう「パリでエッフェル塔を見なくてすむのはこの場所だけだ…」というスノッブな言い訳とともに。僕はそこまでスノッブなエクスキューズを思いつくまでもなく、明らかにその鉄塔コンプレックスの被害者である。この鉄塔から見下ろすパリに「物足りなさ」を再確認してアンヴァリッドを見下ろした。そして駆け上ったときよりもさらに速いスピードで、僕は階段を駆け下りるのだ。

(つづく ?)
by cherchemidi | 2007-04-29 03:15 | monologue
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par 梶野彰一
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